話が逸れたが、再び薬でフラフラになりながらも、俺はタクシーを拾い、ホテルへと向かった。
翌日は日本へ帰国しなければならない。一刻も早く眠らなければならなかった。

案の定、タクシーは10分程度でホテルに到着した。
タクシーの運転手にお礼を言う余裕はあったが、俺は部屋に戻るなり、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。
薬の影響もあっただろうが、極度の緊張のおかげで相当に疲れてしまったのだろう。


そして、帰国の日の朝。

前日、男に会う前に目覚ましをセットしておいたのが幸いし、俺は比較的余裕を持って目覚める事が出来た。
まだ少しフラフラする頭をさすりながら、ゆっくりと体を起こし、俺は帰国の為の身支度を始めた。
ポケットに入っている札束をベッドに広げ、改めて数えてみると、残念な事にかなり足りない。
2回に渡って男は金を返したが、それでも全てではなかったのだ。実に2万THBほど足りなかったが、よく考えれば命があるだけでも良かったと考える事が出来るので、そこは悔しいが授業料として諦める事にした。

ある程度荷物をまとめ終わり、そろそろチェックアウトしようとした瞬間、ある事に気がついた。

「パスポートが・・・ない。」


まさかの展開である。
初めての海外旅行で、かつ一人旅である。
様々なトラブルに巻き込まれた挙げ句に、最後にこんな劇的なオチが待っていようとは。

冷静になって考えてみても、どこでどう失くしたかが分からない。
もう一度荷物をひっくり返し、パスポートを探してみる。

しかし、見つからない。

途方に暮れた俺の頭に、ふとあの男の顔がよぎった。


「盗られた・・・か。」