しばらくの間、そっけない態度をとっていると、呆れたような仕草をして奴はどこかへ消えた。
しかし、なぜかすぐに戻って来て、俺にビールを勧めて来た。
知り合いでもない奴におごってもらう理由もないが、最後の夜だった事もあって少し飲みたい気持ちが先行し、そのままビールを受け取った。

タイのビールは飲みやすく、タイの暑さも後押ししてガンガン飲んでしまう。
油断するとすぐに酔っぱらってしまうので、本当に注意が必要だ。
その日も、そうやってすぐに酔っぱらい始めた。

ほろ酔い加減になった所で、奴が切り出した。

「近くにトムヤムクンがうまい店があるんだが、一緒に食べに行かないか?」

と。

俺はタイに来たものの、貧乏臭い料理しか食べていなかったので、タイの代表的な料理の一つであるトムヤムクンを食していなかった。
ほろ酔い加減の俺はその誘惑にまんまと負け、奴の言うままにタクシーに乗って郊外の店へと移動した。

人影もまばらなエリアに、その店はぽつんと建っていた。
今思い返せば、本当に地元の人が行くお店だったのだろう。
トムヤムクンは酸っぱ辛く、確かにうまかった。
そして、トムヤムクン以上にビールが進んだので、気がつけばかなりの量を飲んでいた。

これ以上はやばいと直感で感じた俺は、帰る事を男に提案し、会計を済ませて店を後にした。
店の前でタクシーを拾い、俺は自分のホテルへと帰ろうと行き先を告げたが、なぜかその男も乗り込んで来た。
さっきまで一緒に食事をしていたので、無下に追い出す訳にもいかず、なんだか腑に落ちないまま二人でタクシーで宿のある地区へと戻る事にした。


そして、飲み過ぎたせいか、俺はすぐに深い眠りに落ちた。