「あら、いらっしゃい」

と、俺に声をかけて来たのは、そのバーのマスターだ。
しかし、どこからどう見てもオカマだ。
タイによくいると聞いていた「きれいなオカマ」ではなく、どこからどう見てもオッサンなオカマだ。ブリーチで紙の色を抜いたのか、オカマスター(オカマのマスター)は金髪だった。
四角く角張ったオッサンの顔をしていながら、汚い金髪はてっぺんでちょんまげを結われ、オカマスターの印象をさらに強めるアクセントとなっていた。
顔には、どこで覚えたのか明るめの青のアイシャドーと、バカ丸出しの真っ赤なチークで飾られ、オカマスターの戦闘力を高める装飾がなされている。
さらには、中年太り+ビール腹という表現がぴったりの丸まるとした原を覆い隠すように、白のタンクトップをまとい、オカマスターの装備は完璧と言えるものになっていた。

「キモイな」

そう思いながらも、とりあえずオカマスターの正面に座り、俺はビールを注文した。
俺以外には、どうしようもなく堕落した白人のオヤジが一人いただけで、オカマスターの興味は数少ないアジア人の俺に向けられた。

「どこから来たの?」

オカマスターは優しく俺に問いかける。
俺は何事も経験だという考えに基づいて、オカマスターとの会話にチャレンジした。

オカマスターは久しぶりの若い男の登場に浮き足立っているようにも見えたが、質問内容としては当たり障りの無いものだった。