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2010年08月

話を元に戻そう。
会社に到着する直前に受け取った、ソフィーからのSMSは悲しい知らせだった。

「実は、明後日にはフィリピンに帰るの。だから、これが最後になっちゃうね。あなたとはまた会いたかったけど、ごめんね。」

ついさっき感じたばかりの安心が、一気に吹き飛んだ。
人との繋がりを感じる事が出来た直後に、その繋がりを一気に摘み取られ、途端に不安な気持ちが俺の心を支配し始めた。
誰かに支えられていたという安心感が俺の不安を幾分和らげてくれていたのだが、俺の頭が再び遅刻している現状を理解し、会社に到着した後に起こるであろうシチュエーションについてシミュレートし始めた。
俺が想定したシチュエーションはこうだ。

「扉を開けて挨拶をするが、皆が怒りを伴った視線を向けて無言のまま俺を見た後、ボスからのキツイ一言。」

このシチュエーションに対して、俺が出来る事は謝罪と反省以外には無い。
実際に扉を開ける直前まで、どのような言葉で謝罪をすればいいのかと頭を悩ませていた。もちろん、ソフィーとはもう会えないという悲しみに支配されたまま。

そうして、ついに会社の扉を開ける。
その瞬間、

「ずっぽし!ずっぽしして遅刻した人が出社してきたぞ!」

と、どこか楽しそうなボスの声が聞こえた。
しかし、その声はどこか厳しい口調でもあり、やはり怒りを伴っているのだと感じられる。
俺は先手を打たれた格好となり、その言葉にただ「遅刻してすいません!」と簡単な謝罪しか出来なかった。

この後がボスなりの戒め方なのだろうか。
ここから一日に渡って昨晩の出来事について詳しく報告することになり、また、それが社内で共有される事となる。
ソフィーとはもう会えないと分かっている俺にとっては、それはかなり辛いペナルティーだった。

ソフィーと別れた俺は焦る心を抑えようと必死に自分に言い聞かせながら、次のタクシーを待っていた。
この時点で、俺の頭の中からはすでにソフィーの存在はなくなり、早く会社に行く事ばかりを考えていた。

ほどなくして次のタクシーが現れ、俺はタクシーが停まると同時にそのドアを開け、勢い良く飛び乗った。
運転手に行き先を告げ、やっと不安が和らいだところで、ようやくソフィーの事を思い出す。
タクシーに乗っている時間はわずか10分ほどだが、別れ際に十分に言葉を交わせなかったと後悔した俺は、ソフィーにSMSを送るため、携帯を取り出した。

「ごめんね。また連絡するから。」

そんな短い文章しか送ることが出来ない俺の英語力を再び悔やみながらも、すぐに再開できると期待を込めてメッセージを送った。
O氏の案内が無くてももう一人でワンチャイに乗り込んでいけると自信を持っていた俺には、ワンチャイはもはや未知の土地ではなくなっていたのだ。

タクシーが会社に着くかどうかというタイミングでソフィーから返事が返って来た。
返事が返ってきたという事だけで、俺は今日は遅刻しているのだという不安が和らいだ。
どのようなシチュエーションにおいても、友人からのメッセージを受け取るとうれしいものである。
連絡を取り合っているという行為によって人は他人との繋がりを認識し、自分が孤独で無いことを認識することができる。
そうして安心を得て、俺は精神を平常に保つことが出来る。

こんな事を書くと、一人ぼっちが怖い、単なる弱虫のような奴だという印象を持たれるかも知れない。
しかし、実は、その通りである。
一人でいる事が怖いと感じるからこそ、人との繋がりを大切にする事が出来、それでいて自分から積極的にコミュニケーションを取ろうと努力するのではないだろうか。


こんな堅苦しい事を書いてもつまらないので、今後は極力控え、話を先に進める事に専念していこう。

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