ルーズな案内
アユタヤまでの道のりは2時間程度と聞いていた。アナウンスがあるがそれが何を言っているのかが分からないので、ひたすら時計を見ていた。
「2時間過ぎた頃に停まった駅で降りればいいんだ」
今考えてみれば、非常に危険な行動である。
日本の感覚であれば、2時間と言われればほぼその通りに到着するだろう。
しかし、ここはタイだ。
タイの鉄道はとてもいい加減で、出発時間もそもそも守られてなかったぐらいだった。
そんなお国柄の鉄道は、時間にルーズなものである。
2時間経っても、それらしきアナウンスは聞こえないし、それらしき駅にも停まらない。
不安になってそわそわし始めた俺は、まわりに英語で話しかけられそうな人がいないかとキョロキョロし始めた。
しかし、周りはみなタイ人だった。
浅黒いタイ人に混じって一人キョロキョロしていると、非常に怪しいものである。
みんなが俺をじろじろ見ているような気になって来た。
そこで偶然車掌が通りかかったので、切符を見せて「ここどこ?」と尋ねてみた。
すると、「まだだから座ってろ」と言わんばかりにいなされ、またおとなしく座り直すしか選択肢は与えられなかった。
その後30分が経過した頃に、また車掌が通ったので聞いてみた。
しかし、結果は同じ。
「本当に着くんだろうか?実はもう通り過ぎてるんじゃないだろうか?」
などと不安いっぱいになりながら、黙って待つ事にした。
しかし、そこから1時間がさらに過ぎようとしていた。
いい加減、「おかしい」と思った俺は、近くの人にも聞いてみる事にした。
するとずっと俺を見ていたおばさんが、
「私もアユタヤで降りるから、座ってなさい。着いたら教えてあげるよ。」
と声をかけてくれた。
そう、まだ着いてなかったのだ。
2時間程度と言った旅行社のおじさんが嘘つきなのか、それとも列車が遅れているだけなのか。
なんだかんだと、俺は4時間ぐらいは列車の中で座り続けた。