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2011年02月

「あら、いらっしゃい」

と、俺に声をかけて来たのは、そのバーのマスターだ。
しかし、どこからどう見てもオカマだ。
タイによくいると聞いていた「きれいなオカマ」ではなく、どこからどう見てもオッサンなオカマだ。ブリーチで紙の色を抜いたのか、オカマスター(オカマのマスター)は金髪だった。
四角く角張ったオッサンの顔をしていながら、汚い金髪はてっぺんでちょんまげを結われ、オカマスターの印象をさらに強めるアクセントとなっていた。
顔には、どこで覚えたのか明るめの青のアイシャドーと、バカ丸出しの真っ赤なチークで飾られ、オカマスターの戦闘力を高める装飾がなされている。
さらには、中年太り+ビール腹という表現がぴったりの丸まるとした原を覆い隠すように、白のタンクトップをまとい、オカマスターの装備は完璧と言えるものになっていた。

「キモイな」

そう思いながらも、とりあえずオカマスターの正面に座り、俺はビールを注文した。
俺以外には、どうしようもなく堕落した白人のオヤジが一人いただけで、オカマスターの興味は数少ないアジア人の俺に向けられた。

「どこから来たの?」

オカマスターは優しく俺に問いかける。
俺は何事も経験だという考えに基づいて、オカマスターとの会話にチャレンジした。

オカマスターは久しぶりの若い男の登場に浮き足立っているようにも見えたが、質問内容としては当たり障りの無いものだった。

こじんまりしたプチホテルが俺のプーケットでの拠点となった。
初めての土地に来た時は、やはりウロウロと歩き回るのが一番だろう。
ホテルの周りになにがあるかを確かめ、さらにホテルの位置を周辺地図と共に把握する。
今では旅行に行くと必ず行っている事だが、この頃からその習慣が身に付いたのかも知れない。

それから俺は、ビーチに向かって歩き始めた。
ビーチまでは歩いて10分程度だったが、何やら町が微妙な空気に包まれている事を感じ取った。
いたる所で廃材が転がり、海に近くなるほどにその数は増していった。
さらにビーチ間際に並ぶレストランなどは一部を除いて廃屋のようになっていた。

そう、インド洋沖地震の影響で、津波災害が発生した直後だったのだ。

そうとは知らずに呑気にヘラヘラしながらうろついていた俺は、その被害の甚大さに驚き、そして若干の後悔を覚えた。
訪れた時期が悪かったと後で反省したが、しかし、それも物は考えようだ。
俺は悲しい気持ちを覚えながらも、復興しようとする被災後のプーケットを見て回ろうと、ひたすら歩き回る事にした。この時の気温は30度を超えていたが、途中で買ったペットボトルの水を飲みながら、夕方まで歩き続けた。

人々の復興への気持ちは強く、また被災後に営業を再開したレストランでは、素敵な笑顔を振りまきながら働く従業員の顔も見る事が出来た。
悲しむ事は大事だが、それだけでは決してプラスになることはないのだ。


そんな風に考えながら、夕暮れにオープンしだす露天のバーに立ち寄った。

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