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2011年07月

実は、俺はその前の日にATMの操作を間違え、大量の現金を持っていた。
正確な金額は忘れてしまったが、8万THB(タイバーツ)ほどだった。

8,000THBを引き出そうとした時に、間違ってゼロを一つ多く押してしまったのが原因だが、当時はATMから引き出してしまった現金を戻す術も知恵も持ち合わせておらず、かつホテルに置いておく事が危険だと思い込んでいた。
それもそうだろう、8万THBといえば当時のレートで24万円ほどになる。
当時は(今もだが)一介のサラリーマンでしかなかった俺からすれば、大した金額だ。

そして、それが無くなっていたのである。


俺はそこで一気に目が覚めた。
意識が戻って来たなどというレベルではなく、「覚醒」と表現出来るほどに俺は一瞬にして全てを理解した。
この男が今まで俺と一緒にいた理由と、俺のお金の行方について知っているという確固たる確信を持つ事が出来たのだ。

目覚めた俺は、一気に攻勢に出た。

男は俺の予想外の抵抗に驚きながらも、さらにその表情を強張らせて俺に訳の分からない言葉を浴びせて来た。おそらく、自分の国の言葉だろう。

しかし、俺がそれを理解出来るはずも無く、拉致があかなくなったところで、タクシードライバーに車を止めるように言った。
いや、正確には大声で怒鳴った。

慌てたタクシードライバーは急ブレーキを踏み、薄暗い郊外で車は止まった。
そして俺は訳の分からない言葉を浴びせてくるこの男を車から引きずり下ろし、思いっきり男を突き飛ばした。


しかし、奴は俺を二周りほど大きくした巨漢だ。
少しよろめいたものの、転ぶまでには至らなかったが、その行為に少し怯んだ様子を見せた。
その隙をついて、俺は再びタクシーに乗ろうとしたが、その時に異変に気付いた。



そう、俺のポケットに入っていた現金が無くなっていた。

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