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2010年10月

アイリーン(仮)はドアを開けて、こちらへやってきた。
その表情には恥ずかしさを覆い隠すようにうつむき加減で、無言のままだったが、こちらがその様子を伺おうと顔を覗き込むと、満面の笑みでこちらに向き直った。

俺が驚いた表情を見せると、アイリーン(仮)は無邪気に笑い、楽しそうな表情で話始めた。
その話をずっと聞いていてもいいのだが、このままでは話をしているだけで夜が明けてしまいそうだと感じた俺は、その話を遮るように、そっと唇にキスをした。
不意を突かれたアイリーン(仮)は、はっと驚いた表情を一瞬覗かせたあと、優しい笑顔で俺のキスの意味を読み取ったと返事を返した。

こうして、俺とアイリーン(仮)はようやく大人の時間に突入する。
アイリーン(仮)の手を握り、立ち上がると、俺は無言のまま自分の部屋へと誘導した。

決戦は金曜日という歌があった。
昔好きだった女の子がよく聴いていた、ドリカムの歌だ。
そんなことを思うと、金曜日と言うのはなんだかとっても忙しい日のように思える。

これから、まさに決戦の火ぶたが切って落とされるという瞬間、俺はリビングのソファーに腰かけながら、シャワールームの扉をが開くのを今や遅しと待ち構えていた。

「ガチャリ」

シャワールームの扉が開く音がした。
その瞬間に俺はその扉を凝視した。
その瞬間の俺の目は、さながら「今にも飛び出しそうな鬼太郎の親父」ぐらいの大きさだったことだろう。

ドアがゆっくりと開く。
そのわずかな隙間から、顔をのぞかせたアイリーン(仮)は、俺と目があった瞬間にびっくりしたように慌ててドアを閉めた。

「しまった」

凝視し過ぎてた事に気付き、俺は慌てて視線をテレビへと向け、再びドアが開くのをわざとらしく待った。
決戦の前に怖がらせてはいけないのだ。
女性は、往々にしてロマンチストである。
どのような時も、ロマンスを重んじ、いついかなる時も「白馬の王子様が私を迎えに来てくれるかもしれない」と物事の描写には個人差があるものの、概ね似たような事を夢に見ている。
そんな瞬間に、自分を狙っている男がまさか「スパンスパン王子」とは思ってもいないだろう。
王子違いも甚だしい。

このような場面では、俺は極力冷静を保つように心がける。
焦る男はみっともないのだ。
振る舞いに余裕があるところを見せると、女性は必然的に安心する。
もちろん、凝視していた瞬間は、全然余裕が無い事を露呈してしまったのだが。

そんなことを一人で考えていると、再びアイリーン(仮)がドアの隙間から顔をのぞかせた。
外に出てくるまでのプロセスは全然違うが、天岩戸伝説のアメノウズメのミコトのごとく、だ。

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