開けない方が良かった宝箱
いよいよ今回の旅の終わりが近づいてきた。
9日目の朝を一人で迎えたのだが、よく考えてみるとここまで毎日誰かと一緒に寝ていた。
ほぼ毎日入れ替わっていたのだから、振り返ってみるとよくここまで遊べたものだと感心する。
まぁ、裏を返せば「ろくでもない」わけだが。
昨日は朝から強行2スパン+久しぶりの新規ペイバー案件との一戦で3スパン。
なんとなく大した事ないような感覚が残っているのは、それまでの日々がクレイジー過ぎたからなのかも知れないが、結果的にここまでで20スパン。
9日目の朝時点で20スパンなので、平均すると1日2スパンをコンスタントにこなした事になる。
昨日の新規案件、前半のゴゴ巡りの際に出会っていた嬢だが、「逸材だっ!!」と感じてやまなかった案件だった。
それ以降も毎日のようにメッセージを送りあい、ビデオコールでの会話などを楽しみながら、会うのを楽しみにしていた。
スパン以上の期待がそこにあったからだ。
若干20歳、店内ではテンション高く、スレ臭を警戒したのだが、その後のやりとりで「意外にニサイディーなのか?」と思い始めていた。
最近はゴゴでペイバーをする事を意識的に避けてきた俺だが、ここは何か直感のようなものを信じてペイバーを敢行した。
事前の連絡でペイバー台が1,500THBと高額である事は告げられていた。
そして、ショートペイバーで2,500THBである事も。
俺はそれを了承し、ペイバー後に「食事に行こう」と誘ったところ、「食事?いいよ。」と快諾してくれたのでのんびり食事に行く事になった。
ショートペイバーの場合は通常1時間程度で終了するのだが、食事とセットになると必然的に長くなり、一緒にいる時間が長くなると考えたからだ。
普通は嫌がられるこの手のオファーをあっさり受けてくれるところと、店を出てからの態度などに優しさを感じた。
基本的に荒みきっている俺の心は、そんな素朴な彼女の優しさに癒されていた。
なぜかえらく遠くまでタクシーで連れて行かれたのだが、そのタクシー車内でも彼女は優しい笑顔を見せてくれ、タイ語中心ではあったが気を使って色々と話をしてくれた。
到着したレストランは彼女がよく来るというローカルの鍋屋で、オーダーの仕方すら分からない俺に代わって色々と頼んでくれ、さらには調理までしてくれた。
居住地である香港では味わえない感覚。
彼女が笑顔を絶やさずに慣れた手つきで鍋の準備をする姿、自然なタイミングで料理を取り分けてくれる間合いの良さなど、忘れかけていた「女性と一緒にいる安らぎ」を思い出させてくれた。
正直、恋に落ちそうだった。
こんな嫁が欲しい。
一瞬、本気でそう思った。
しかし、彼女はバンコクで働く夜の蝶である。
色々と確認しなければならない事がある。
というのも、華奢な身体つきの割にぽっこりしたお腹や、全身の筋肉の緩み具合など、とある事象を裏付ける特定の条件が揃っていた事から、俺の脳裏から一抹の不安を拭いきれなかった。
それを確認するには、直接それについて質問するか、身体を見せてもらうしかない。
俺は直接聞いて彼女の笑顔が消えてしまう事を恐れた。
どうせスパンする流れなんだから、自然な流れで確認してしまえばいいだろう。
そう考えたのだ。
そして、いざ事に及んだところ、やはり俺の不安は的中していた。
悲しかった。
その時点でスパンするのを止めてしまおうかとも思った。
が、そこで止めてしまっては、それを気にしていた彼女の気持ちを傷つける事になるかも知れないと思い、俺はそのまま継続する事にした。
いつもと同じように、クンニクバスターもし、彼女がイった事も確認した。
通常ならフィニッシュ後には満足感と達成感、そして気怠さに包まれるのだが、今回のスパンの後には喪失感だけが俺を包んでいた。
手に入れたいと思っていた宝箱を見つけ、開けてみると中には何もなかった。
何も入ってない事を知ってしまうぐらいなら、開けなければ良かった。
そんな喪失感である。
そう、彼女には子供がいたのだ。
若干20歳にして帝王切開の手術痕がしっかり彼女の身体に刻まれていた。
タイでは決して珍しい事では無いのだが、今回はショックが大きかった。
俺は身体に多少の傷がある事ぐらいは全く気にならないが、若干20歳にして帝王切開の痕があるという事の背景を考えると、俺にはそれらを背負い込む度量は無い。
情けない話だが、俺はその程度の男だ。
が、彼女には何も悪いところは無い。
ただ、彼女の人生において色々なイベントが早めに訪れただけである。
俺は彼女の客であり、彼女にとても丁寧に接してもらった事に感謝し、きちんとした形でお礼をしてから、彼女を見送った。
彼女を見送った後に、「あなたはとても親切で素敵な笑顔を見せてくれた。ありがとう。また友達として会いましょう。」とメッセージを送った。
それが俺に出来る精一杯の対応だった。
追い払えない喪失感の亡霊が、肩を落として彷徨う俺の足取りを重くする。
そうして行き場を失った俺は一人でシーシャを吸いながら夜明けを迎え、明け方になってから眠りに落ちた。
人生とは深いものであると、勝手に感慨にふけった夜明けのシーシャだった。
2015年累計スパン結果: 276スパン(2015/10/3)
2015年累計スパン結果: 276スパン(2015/10/3)